P&W R-1340-57星型エンジンのレストア
2014年末で終了します |
機首のカウル(観音開き)を開けるとエンジン後面の補機が露出します。
この写真にはスターたーモーター(上)マグネトー(右)、リングマウント、冷却パイプ、オイルホースなどが見えます。
▲配電気(ディストリビュータキャップ側。9気筒分の端子が見えます。この配置には星型エンジンの秘密があるのでしょうか?
マグネトーは、CINTILLA- BENDIX AVIATION製。
★その他の部品/Other Parts
★スーパーチャージャー/Super Charger
R-1340-57 機体装備編 0901追記
スーパーチャージャーのハウジングには、インテークパイプが刺さるマニフォールド基部が渦巻状に生えています。下側から吸い上げた混合気をインペラで攪拌加圧し、ディフューザを通して放射状に配置された各気筒の最上部まで均等に配分しようというのは、混合気の慣性、ガソリン粒子の重量などから、難しかったと思えます。混合気が不均等であれば均質な燃焼は得られず、大きな振動が発生すると言うことになります。
■航空機用のレシプロエンジン−特に星型エンジンは面白い機械です。
現在の自動車エンジンが備えている比出力や低振動騒音、排気ガス対策などの性能や機能はありませんが、その代わりに過酷な条件下での信頼性と性能は非常に高く作られているといえます。
航空機は海面上から1万数千メートルまで、気温も40度c+からマイナス50度c、気圧も1〜1/3(8000m)と激変する環境内をわずか2〜30分で行き来しなければならず、また離陸時や戦闘時は必ず最大出力を持続しなければならないという重い制約が架されています。
それを維持する代償として、高オクタン価燃料、滑油の大量消費、訓練されたパイロットとメカニックによるオペレーション、厳しい点検整備(と費用)が必要になる訳です。
このエンジンは、H-19救難・輸送ヘリコプタに装備されていたもので、軍用を用廃後40年近く経っていると思われます。
▼Lubrication Chart-原紙はカラーでプレシャー側とスカベンジ側が分けて表記されていたようですが、この図では分かりません!
冷却ファンは、直径1m近くの大型で、アルミのハブの全周に、鋳物のブレードがスクリューで固定された風車ともいうべき組立品です。このファンの消費馬力と騒音はすざましかったでしょう!
ファンの外周はシュラウドで囲まれ、空気がシリンダーに流れるようになっています。各シリンダー間は、複雑な形にプレス整形されたバッフルプレートでふさがれ、冷却空気が素通りしないように配慮されています。
▲取外したバルブ。バルブかさ径は、吸排とも66mmと同一サイズ。ただし軸径は吸気10Φ、排気15Φと大きく異なります。これは。排気弁軸が、中空の冷却弁のためです。
リング状のカム。2列になっていて、吸気排気が別の列になっています。カムはクランクの1/8スピードで駆動されます(MNL)。カムの直径は281mm、カム山は前後列とも4山ずつで、リフトは9mmとなっています。このカムがローラーフォロアー→プッシュロッド→ロッカーアーム→バルブと、順に駆動していきます。
キャブレターのサイズは大きく、両手で抱えるくらい、400cc2気筒のバイクエンジンくらいの嵩があります。
このキャブレターは、完全に錆び付いており、残念ながら再使用できないでしょう。
排気側ロッカーアーム室。バルブ、コイルバネ、ロッカーが組み込まれます。
バルブガイドやロッカーの潤滑は、各ロッカーアーム室をつなぐパイプで圧送されるオイルによります。
オイルはプッシュロッドケースのパイプでクランクケース、サンプへ戻します。オイル下がりを抑制するためのバルブのステムシールは無く、オイル下がり(上がり?)は激しかったと思われます。
また、上側のシリンダーと下側とでは、オイル下がりによる点火栓の汚れの差が、相当あったと思われます。
所沢の航空発祥記念館に展示してあるSPECボード。機体の程度も
良い状態です。
▲分解された主要部品。星型エンジンは、形状がシンプルかつ同一部品の集合で、分かりやすいこともあって、好感が持てます。
★キャブレター/Carburator
★シリンダとピストン/Cylinder, Piston
★クランクケース/Crankcase
★クランクシャフト/Crank Shaft
▼エンジンからギヤボックスに至るシャフトは、パイロット間のコクピットの床を抜け、荷物室天井をかすめて通ります写真(右側が機体前方)。
▼機体側空気取り入れ口。
R-1340-57星型エンジンは、ごく初期のヘリコプターである、Sykolsky H-19輸送救難ヘリコプターに搭載されています。この時代には、小型のターボシャフトエンジンなどなかったので、星型エンジンを写真のように機首に斜め後ろ上方に向けて装備しています。
エンジンからは、エンジンと等速回転するドライブシャフトが両パイロットの足のそばを抜け、背面のギヤボックスにいたる、超機能重視のレイアウトです。 パイロットは、粗末ななアルミの箱に入り、エンジンに跨って飛んでいるようなもので、すざましい振動騒音、おそらく熱も受けたと思われます。現代のヘリコプターから見れば、まことにプリミティブともいえますが、時代を築いた機体であることも事実です。また。この機体は胴体幅が狭くトレッドも狭いので、よく転覆した・・・と言う話を聞いたことがあります。
殆んどが分解したばかりの状態の部品類。この状態ならば、誰でももう一度自力で回転させられるレベルだと思うでしょう!
9気筒22.4リッターという大排気量燃焼室に、混合気を供給するキャブレター。ダブルバレルの昇流型(アップドラフト)です。
スロートは81mmΦと、自動車用に比べると大型です。このエンジン用にはフロート付で(装備したヘリコプターは背面飛行できない)、ニードルバルブ式エコノマイザー、背圧式ミクスチュアコントロール、加速ポンプなどが装備されています。
キャブレター自体は(米)STROMBURG製で、メインテナンス・オーバーホールは三菱重工とのPLACが貼られています。エンジンの始動時には、チョークの代わりに気筒内に直接生ガス(ガソリン)を噴射するプライマー装置がついています。
シリンダは、窒化鋼の胴にアルミ鋳物のヘッドを焼きばめした構造です。1気筒あたり2.48リッターという大容量ながら、一体あたり約13.5Kgと空冷式ならではの軽さです(バルブ含まず)。
日本の代表的航空発動機、中島「誉11型」と記されたエンジンで、海中から回収されたものと思われます。「誉」は、中島飛行機製、複列空冷18気筒、離昇1800HP/2900rpm/ブースト500mm、2段2速過給機装備で、シリーズで9000基生産されました。
このエンジンは陸上攻撃機「銀河」に装備されていたものと記されています。鍛鋼製クランクケース、シリンダは形を止めていますが、細かい冷却フィンを持ったアルミ合金のシリンダヘッドは完全に溶け落ちています。左のプロペラ側におおきなファルマン式減速歯車室があり、その上に配電器がついています。
右側のいくつもの穴があいた部分からは、吸気パイプが各シリンダ(前後列)頂部のポートに向かいます。
(この展示は、上下がさかさまのような気がします・・・。)
▼複列18気筒エンジンの構成
▲クリーニングされたアルミ系部品部品は、ジンクロメートエポキシプライマ(MIL-P-23377A)で防錆塗装され、その上にオリジナル塗装を元に調色したポリウレタンのグレイが塗装されます。
▲スーパーチャージャーと、増速ギア部。遠心圧縮式で、クランクシャフト後端のギアセットから2段で増速されます。翼車は直径が170mmの小さいものが1段付いています。
写真の白いお皿状の部品は固定で、この上にステーター(放射状のべーンがついたディフューザ・羽根車のケース)がつきます。3つの穴は、補機駆動のシャフト用で、過給器室を貫通しています。
大戦時の航空エンジンは、高空性能を上げるため、過給システムの実用化に全力を投じましたが、日本では機械駆動式以外(ターボ過給器、酸素噴射など)は広く実用ならず、B-29の高高度進入を許したとされています。
機械式では2段2速のものが実用化され、「誉」など2000馬力級エンジンでは、翼車の直径が320mm、回転数は増速比7.49(高速側)で21000rpm、速度の切り替えは湿式多板クラッチを使った機械式、とすごい機械になっていました。
航空機用の発動機は、高空の空気密度低下に対応した過給器を持ち、高空でも可能な限り高い出力を発揮し続けなければなりません。R-1340-57は、ヘリコプターに搭載される仕様(S.L〜2000m程度か?)であり、スーパーチャージャーは飛行高度域が広い戦闘機用ほどのパワーや、速度の切り替え機能はありません。2ステージのスパーギヤセットで、クランクシャフトスピードの12倍(MNLによる)で駆動され、混合気を過給します。
(写真右)リアケースは2基のマグネトー、スターターモーター、キャブレターなどの補機を取り付けるめ、複雑な形状に作られています。ケース中央の大きな穴は、電動スターター・ジェネレータ取付け部です。その斜め下には、シンチラ製マグネトー(右が前列プラグ、左が後列プラグ用)が取り付けられます。エンジンは写真のリングマウントに6箇所のラバーマウントで吊られています。
▲東名、中央、圏央道と乗り継いで搬入した態状は、集合排気管、シュラウドなど、ほとんど完全装備状態でした。ただ、後面(排気管側)を下にして地面に直接置いてあったので、一部が変形していたり、さびが多かったりしていましたが、油分が沢山残っていたこともあって、内部は驚くほどよい状態で、再起動できるほどに思われました。
▼エンジンのレストアにあったては、100mm角の鉄パイプでキャスターつき専用スタンドを用意し、オリジナルのリングマウントを使って固定します。
重量が約600Kgもあるので、安定した脚寸法を必要とします。水洗して泥やごみを落とし、CRCなどを吹いて簡易的に防錆し、寸法計測や写真撮影にかかります。
(REF.)空冷エンジン装備機は、エンジンを機首に置いてカウリングで包み、バッフル板を巧みに使って冷気を配分し、シリンダ−を適温に冷却するようになっています。複列のエンジンでは、前側シリンダ間を通り抜けた空気で後列を冷やさねばならず、バッフルの設計が出力を左右してきます。
▼排気管は、薄肉のΦ60鋼管で軽量です。集合排気管部は排気気筒が加わるごとに少しずつ太くなり、最終出口部では150Φとなる、溶接構造の手が込んだ作りです。
▲プッシュロッドとケース。バルブロッカーアームを駆動するプッシュロッドは先端が球状で、中央にオイル通路があります。ロッドとケースはオイルの循環路の役を果たしています。
▲補機類を駆動するシャフト。太いのがS/C用、細い2本がマグネトー用です。
シリンダー間に取り付けられ隙間をふさぐバッフル。これで気流を正しくシリンダに向け、必要部にはパイプを生やしてスポットで補機の冷却風を導きます。
▲1気筒あたり2.48リッターの極大ピストン、直径は144.5mm。リングは上からクロムメッキのコンプレッションx1、鋳鉄のコンプレッションx2、オイルコントロールx1、下側にスクレーパーリングx1の計5本となっています。
ピストン裏側には、冷却と補強のためのリブが立てられています。ピストンピンと、ピストン自体の冷却には、ウエブ側からオイルジェットが噴射されます。
極薄のシリンダーは、削りだしのフィンを持ち、上側のセレーション部にアルミ合金のシリンダーヘッドを焼きばめします。したがって、バルブの交換などの場合は、シリンダー全体を外し、奥まで手を差し込んで行う作業が必要になります。
▲エンジンマウント。リング状のフレームに付いた6箇所のブラケットでエンジンを支えます。右は固定用ボルトで、くの字型の特殊ボルトになっており、小容量のクッションゴムが付属します。星型エンジンのリングマウントは、普通のプロペラ機に搭載する場合にも使用します。
●2006年以来、本機のレストアを続けてきましたが、2014年度一杯で外観を完成させ、このプロジェクトに一切りつけることになりました。同時にこのタイムスリップも終了することになります。お読みいただいた方に、お礼申し上げます。
●今後、本機にかわり、PT-6Aターボプロップエンジンのカットモデル化を実施する予定です。
クランクシャフトは前側から見てCCWに#1〜#9となっており、#5(一番下)にマスターロッドが配されます。点火は1・3・5・7・9・2・4・6・8と、1気筒づつ飛ばして回転方向に進みます。これが気筒数が奇数本の理由のひとつとなっています。
星型エンジンのクランク配置では、コンロッドはこんがらがってしまう!と言う人が多いですが、この写真で原理をご理解いただけます。クランクの構成は、簡単に言えば、ウエブが1対しかない単気筒ンジンのコンロッド(マスターコンロッド)に、他の気筒のコンロッドがのっかって、同一の平面を(自分の範囲だけ)同時に回転するというものです。
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